匿名ながらsrecetteさんらしいパフェ、Anonyme
こんにちは。
寒い日が続きますがみなさまいかがおすごしでしょうか。
先月15日から今月13日にかけて、だいすきパフェ屋さんことsrecetteさんが23作目の”Anonyme”というパフェを、渋谷のFabCafeにて提供されていました。
わたしは例によってせっせと予約をとり、せっせと渋谷の坂をのぼっていたので、今回はその話をさせてください。
Anonymeは、"今村秋"という和梨をメインに使用したソルベからはじまるパフェです。
梨をトップに据えたsrecetteさんのパフェといえば、2018年の秋に提供されていたMétaphoreを思い出すかたも多いのではないでしょうか。
わたしはMétaphoreがそれはそれはすきで、Métaphoreから派生した(という表現が適切かはわかりませんが)いちじくのパフェbrume、りんごのパフェSimileのこともとても愛しています。
今回のAnonymeもすてきなパフェにちがいない…とたのしみにしていたのでした。
今回使われている"今村秋"という梨は、市場にはほとんど出回らない、主に受粉用として使用されている梨だそうです。おしりのぷくっとした、いびつでかわいいかたちをしています(上にリンクを貼ったポスターにも写真が使用されています)。
梨のソルベとプリン、キャラメルナッツからはじまる構成は、Métaphoreに近いものを感じます。けれどまったりした洋梨のソルべからはじまるMétaphoreとちがい、和梨をメインに使用したソルベがトップのAnonymeは、ざらりとした食感がまさに和梨を思い起こさせる、まったく違う手触りのパフェでした。
こちらの梨のソルベ、はじめの3週間は今村秋と洋梨*1を使ったものでしたが、後半2週間はさらに王秋という和梨が追加されました。
わたしはとくにこの、王秋のはいった和梨のソルベがたいへんすきでした…。はなやかで濃厚な洋梨のかおりにくらべて和梨のかおりはさわやかでとても繊細だとおもうのですが、その繊細なかおりがすごく豊かになっていて、とってもおいしかった…。
王秋は冬のはじめに旬をむかえる梨だそうです。名前に"秋"をもつ今村秋から、冬のはじまりを知らせる王秋へ、季節の移ろいとともに品種が変化するの、すごくすてきで、調べておもわずうなってしまいました。
梨のソルベの下にかくれただいすきなかたいプリン、ラムのかおるクリーム、クリームの下に散らされたキャラメルナッツはどれもたいへんおいしく、グラスの上だけですでに最高です。
キャラメルナッツはクリームのしたにかくれていて一見わからないので、クリームをすくったはずなのにガリっとした食感と香ばしいかおりに出会う初回の印象がとにかくよかったです。また、アルコールのきいたお菓子がだいすきなわたしにとってラムのクリームは、無限になめていたい味でした…。
メレンゲのふたを壊した先には凍頂烏龍茶のソルベと栗のアイスクリームがあります。メレンゲのふたを壊す展開、前回前々回は花びらメレンゲ*2だったので、すごく懐かしくかんじました。
21作目のzéphyrから中国茶づいているsrecetteさんの凍頂烏龍茶のソルベがおいしいのはもちろん(はなやかさもありながら香ばしく、秋らしいお茶のソルベだったとおもいます)、とてもおいしくてだいすきになってしまったのが栗のアイスクリームです。
芋栗南瓜系、くちのなかの水分がすいとられるかんじがして、調理法によってはウーンとおもうこともありますが、srecetteさんの栗のアイスクリームは香り高くなめらかながらほろっとした食感もほのかにのこる、栗のおいしいところだけ集めたようなアイスクリームでした…。はじめて食べたとき、あまりのおいしさに「栗!」とうなり声をあげてしまったほどです。
凍頂烏龍茶のソルベと栗のアイスクリームの下には、クランブル、ほうじ茶クリーム、ほうじ茶ジュレがはいっています。
アイスをむぎゅっと押したとき*3に押し出されてくるのか、メレンゲのふたを割った瞬間ほうじ茶クリーム、という回もあり、今回はどうかな? とたのしく食べ進めていました。
そしてsrecetteさんのパフェでよく登場するパーツのひとつでもあるクランブルはほろほろ感がつよくなり、以前よりおいしくなった気がしています。アイスで冷えたくちにやさしい食感と温度でほどけるのが毎回うれしく、焼き菓子らしい香ばしさは深まる秋のようでした。
いちばん底のほうじ茶ジュレも、やさしい味でとってもおいしかった…。おなじほうじ茶でもクリームとジュレで味の角度がまったくちがって、どちらも入れる意味があるとおもえる構成でした。
うえから順に書きましたが、今回20作目のSimileぶりに底のひろいグラスで提供されていることで、底に到達したあともまだまだ食べられるのがうれしかったです。縦に長いグラスも横にひろいグラスも、どちらもよさがありますが、おいしさを何周も味わえるのは横にひろいグラスなのかもしれません。
メレンゲのしたが香ばしいお茶のソルベとまったりとした栗のアイスクリームというまろやかな構成だったこともあり、おいしい展開を何度もくりかえしながら、時間がゆっくり流れるパフェのように感じました。
個人的に秋冬は時間の速度が遅いと感じているので、まさに秋冬らしいパフェだとおもいます。
ちなみに今回、スプーンがこれまでのパフェスプーンから、うすくてちいさいチタンスプーンに変更されました。
フォルムがシャープでめちゃめちゃかっこいいですね…。
はじめて使ったときは底のクリームがすくいづらく、むずかしい…とおもっていましたが、回を重ねてスルスルと扱えるようになってからは食べごこちのよさに驚くばかりでした。
わたしは今回のパフェではじめて、チタン製のカラトリーを意識して使いました。調べたところによると、チタン製のカラトリーはほかの金属のものにくらべて金属の味を感じづらく、素材そのままの味を楽しむことのできるカラトリーなんだそうです。
そしてこのスプーンはとってもうすい! チタン製のカラトリーがすべてうすいのか、このカラトリーがとくべつそうなのかはわかりませんが、ソルベをそーっとけずる自分の手にこれほどしっくりくるスプーンはなかなかないなとおもいました。
とはいえ今回このうすくてちいさいスプーンで違和感なく食べられたのは、背の低いSimileグラスで提供されたパフェだったから、というのもおおいにあるはずです。Vert(最近では22作目のPiègeに使われていましたね)のようなすこし背の高いグラスだったらまた食べごこちがちがうかも…と、いまから次回以降のスプーンのことを考えてはそわそわしてしまっています。
さて、これまでAnonymeについてあれこれお話ししてきましたが、Anonymeとはフランス語で”匿名”という意味なのだそうです*4。
srecetteさんのパフェはふだんからとてもシンプルな見た目をしています。そして今回のAnonymeは、白く高潔な見た目でメレンゲや果肉、パルフェのかざりもなく、いつもよりさらにそぎ落とされた印象でした。
わたしがパフェのおいしさに目覚めたのは、srecetteさんのMintopiaを食べたときです。それからずっとsrecetteさんを追いかけ続けているわたしのパフェ観は、srecetteさんに育てられたと言っても過言ではありません。
そんなわたしにとっておいしいパフェとは、以下の3点を満たしたパフェです。
まず、ひとくちめがおいしいこと。
つぎに、グラスにのっているものすべてがおいしさにつながる要素であること。
最後に、素材と素材が打ち消しあったり邪魔しあったりしないこと。
もちろんsrecetteさんのパフェはいつだってこの3点を満たした、たいへんおいしいパフェです。
また、srecetteさんらしさについて考えたとき、わたしが考えるのは以下の3点です。
まず、素材のよいところをぎゅっとつめこんだような、おいしさの密度が高いパーツ(たとえば繊細なかおりがひろがる和梨のソルベや、なめらかで濃厚な栗のアイスクリーム)。
つぎに、初めて食べたときにメレンゲの概念をつくがえされた、繊細な口溶けのあますぎないメレンゲ(わたしはとくに6作目Basicのカカオマスメレンゲと、7作目Mintopiaや8作目bouquet、最近だと22作目のPiègeにも使われているミントメレンゲがすきです)。
最後に、ちょっとした罠のように仕込まれた、遊び心を感じる仕掛け(Piègeの最下層にはいっていたパッションフルーツの種や、今回クリームのなかに隠してあったひとかけのメレンゲなど)。
srecetteさんがパフェによってもたらす驚きや感動は、そのときどきによっていろんな角度からやってきます。けれどわたしにとってはそのどれもが、やっぱりsrecetteさんのパフェがいちばんすき、とつよくおもえるものなのです。
Anonymeも、個を隠した名前でありながらsrecetteさんらしさのぎゅっとつまった、すきを更新できるすてきなパフェでした。
いろいろあった2020年、srecetteさんもきっといろいろなことを考えたとおもいます。
srecetteさんがパフェを作り続けてくださっていること、わたしが毎回食べに行けていることはあたりまえのことではないんだな、とあらためて感じる1年でした。
来年もsrecetteさんのパフェをたのしく食べられる日々を過ごせることを祈りながら、今回の記事はこれでおしまいにします。
最後まで読んでくださってありがとうございました!